2006年11月27日

平井和正の『死霊狩り』

 平井和正の『死霊狩り(ゾンビー・ハンター)』シリーズ、全3冊の、アスペクトから出た新装版の新書がブックオフで\105で売ってたんで、買ってきて読みました。こうしてマンガ家がイラストを書いた装幀で読むと、最近書かれたライトノベルみたいな雰囲気ですね。
 『死霊狩り』は前に1冊くらいは読んだ記憶があります。ウルフガイ・シリーズを読んでいたとき、どんなものか味見のため読んでみて、でもやっぱり既にお馴染みだったウルフガイの続きを読むほうがいいやとおもって、そのままになってしまったかんじです。けれど、2巻めの「あとがき」によると、当時これはウルフガイに匹敵する成功をおさめたシリーズだったそうで、たしかにあらためて読んでみると、これはこれでおもしろいですね。
 平井和正の作風はいくつかの時期に分かれるのですが、1979年に『幻魔大戦』を書き始めたあたりに大きな作風の変化があったと思います。それ以後はどれも長大な長編になり、速筆で次々に続きが出るようになり、内容の感じもかわってきます。
 個人的にはその変化する前の平井和正の作風のほうに愛着があります。ウルフガイと『死霊狩り』はその時期の平井和正を代表するシリーズといえるでしょう。
 その時期の平井和正をぼくはリアルタイムでは読んでないわけですが、当時の読者がどんなふうにこの『死霊狩り』に出会ったのか、試しにウルフガイや『死霊狩り』が書かれていた当時に平井和正が出した本をネットで調べて書き出してみます。(後に書名が変わったものもあり、また、非シリーズものの短編集は除いておきます)

 狼の紋章          1971.11   ヤング・ウルフガイ・シリーズ
 サイボーグ・ブルース    1971.12
 狼の怨歌          1972.01   ヤング・ウルフガイ・シリーズ
 死霊狩り 1        1972.12   ゾンビー・ハンター・シリーズ
 狼よ、故郷を見よ      1973.03   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 リオの狼男         1973.09   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 人狼地獄篇         1974.03   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 人狼戦線          1974.08   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 狼は泣かず         1974.10   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 狼のレクイエム 第1部   1975.07   ヤング・ウルフガイ・シリーズ
 狼のレクイエム 第2部   1975.07   ヤング・ウルフガイ・シリーズ
 悪霊の女王         1976.02
 死霊狩り 2        1976.10   ゾンビー・ハンター・シリーズ
 人狼白書          1976.12   アダルト・ウルフガイ・シリーズ
 死霊狩り 3        1978.01   ゾンビー・ハンター・シリーズ

 おそらく当時の平井和正作品のなかで最も読者を獲得したんじゃないかとおもわれる『狼の紋章』の2ヶ月後にはシリーズ2作めの『狼の怨歌』が出ています。しかし3作めの『狼のレクイエム』が出るのは3年半後と、読者はジリジリ待たされることになります。そんなときに『狼の怨歌』の約一年後に、読者の渇きを癒すように『死霊狩り』の1巻めが出たことがわかります。
 その後、なぜかアダルト・ウルフガイものが続くのですが、これは中短編集や長編であっても一作完結なんで、ヤング・ウルフガイや『死霊狩り』のように、この先どうなるんだろう……と思いながら続きが出るのを待つという感じのものではなかったとおもいます。
 そしてようやく『狼のレクイエム』が二冊同時に出て喜んだのもつかのま、また続きは出なくなり、そんなときに『死霊狩り』の2巻めが『狼のレクイエム』に遅れること一年、1巻に遅れること4年で登場、さらに一年ちょっとして3巻と、当時の読者にしてみれば、今度はそれほど待たされず、ちゃんと完結もしてくれた、という感じだったんでしょうか。
 この『死霊狩り』の3巻が出た翌年の79年には『幻魔大戦』が始まるので、これはこの時期の最終期の作品となります。

 たぶんこの時期は平井和正の青年期というのか、平井和正が青年・少年の貌をもつ主人公にとくに感情移入した時期だったんじゃないかとおもいます。ヤング・ウルフガイの少年・犬神明やこの『死霊狩り』の田村俊夫がその例でしょう。
 ヤング・ウルフガイの続編の『黄金の少女』(全5巻)は実に『狼のレクイエム』の十年後に書かれますが、これには主人公の犬神明が登場しません。さらに十年後に書かれる続編『犬神明』(全10巻)ではタイトルどおり犬神明は登場しますが、あんまり活躍しないし、すでに別の人といった印象があります。作者がもうシリーズ開始当時の少年・犬神明に感情移入できなくなっていたのではないでしょうか。むしろ『黄金の少女』のキンケイド署長など、中年男に作者が感情移入しているのがかんじられます。
 もともと平井和正は読者の要望に応じて器用に作品を作るタイプの作家ではなく、むしろ不器用さが魅力になっている作家ですから、作者が少年・犬神明に感情移入できなくなれば少年・犬神明が精彩がなくなり、登場しなくなってきてしまうのは仕方がないことだったんでしょう。
 ヤング・ウルフガイ・シリーズは『犬神明』で完結しますが、たしかにストーリー的にはそこで終わっているものの、内容的にいうと途中から別のものになっていた印象は拭えません。そこへいくと『死霊狩り』のほうはこの時期にちゃんと完結させておいてくれたことに感謝したいです。

 ところで平井和正が好きな作家の一人が大藪春彦であることはあちこちで読んだおぼえがありますが、この『死霊狩り』っていままで読んだ平井和正の作品中ではもっとも大藪春彦の影響を感じさせる作品でした。もっとも大藪春彦ならむしろ林石隆のようなキャラを主人公にしそうな気もしますが。
posted by aruka at 20:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 本、小説、マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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